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人とペットの
健康

私たちとペットの
命を守る
エキゾチックペットのリアルな世界
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人とペットの健康

私たちとペットの命を守る
目次
エキゾチックペットに限らず、ペットと人が共に健康に暮らすには、動物の健康管理を十分に行い、お互いが快適に生活できるような環境を整える必要があります。
 
迎え入れようとしている動物について専門知識を持った獣医師が近くにいるでしょうか?エキゾチックペット、特に野生動物は、犬猫に比べて診療してくれる動物病院の数が限られているため、注意が必要です。また、医療費やペット保険も犬猫と異なる場合があります。
 
また、動物から人、人から動物へ病気をうつしてしまう「人獣共通感染症」も心配です。飼おうとしている動物は必要なワクチン接種をしているでしょうか?あるいは、感染症にかかっていないかどうかの検査は済んでいるでしょうか?こうした健康状態を把握できない場合は、入手を諦めるといった判断も必要になります。
© Sergio Marijuan / WWF

ペットの病気と怪我
ペットが病気にかかったら?

当然ながら、ペットも人のように病気にかかったり、怪我をしてしまったりすることがあります。でも、動物は人のように「お腹が痛いよ」とか「熱があるんだ」と自分で伝えることができません。一般的に動物は体調の悪さを隠そうとする傾向があるため、普段から体調を気にかけ、普段と様子が異なる場合には専門家である獣医師の診察を受けることが大切です。

© Diana Parkhouse on Unsplash

下の表は、ペット保険会社アニコムの調査※1をもとに、主要なペットの疾患で多い種類をランキングで示したものです。全体で最も多いのが皮膚疾患で、消化器疾患と全身性の疾患が続いています。エキゾチックペットでは全身性の疾患が多くみられることがわかります。全身性の疾患のなかには、食べ物による中毒や感染症、外傷や元気喪失・発熱などが含まれます。

1位 2位 3位
犬猫 皮膚疾患 消化器疾患 耳の疾患
消化器疾患 泌尿器疾患 皮膚疾患
エキゾチック
ペット
全身性の疾患 消化器疾患 生殖器疾患
ウサギ 消化器疾患 全身性の疾患 皮膚疾患
フェレット 腫瘍 内分泌疾患 消化器疾患
モモンガ 全身性の疾患 消化器疾患 皮膚疾患
リス 皮膚疾患 全身性の疾患
(同率1位)
消化器疾患
ハムスター 皮膚疾患 全身性の疾患 眼の疾患
ネズミ 全身性の疾患 皮膚疾患 呼吸器疾患
モルモット 皮膚疾患 全身性の疾患 消化器疾患
ハリネズミ 皮膚疾患 全身性の疾患 呼吸器疾患
チンチラ 皮膚疾患 消化器疾患 全身性の疾患
トカゲ 消化器疾患 全身性の疾患 皮膚疾患
アニコムホールディングス株式会社「アニコム家庭どうぶつ白書2021」より

エキゾチックペットを
診られる病院

獣医師といっても、どんな動物でも診られるというわけではありません。犬猫専門という動物病院もあります。エキゾチックペットの場合は、専門知識が必要になるため、診られる動物病院も少なくなります。飼い始める前に、ペットの体調に異変があった時にすぐに診てもらえる専門の動物病院が近くにあるのか確認しておく必要があります。

近年、エキゾチックペットを診療する病院は以前より増えていますが、犬猫の動物病院と比べると決して多くありません。動物病院やペットサロン・ホテルの施設情報を発信するポータルサイトに登録している動物病院12,291病院のうち、犬猫以外の動物も診察している動物病院は3割以下です※2

動物の種類別に見た動物病院の数
(EPARK!ペットライフに登録している12291病院)
「EPARKペットライフ」掲載情報より(2021年12月)

エキゾチックペットの
医療費と保険

ペットが病気や怪我をして病院に行くと、場合によっては入院費や手術費で一度に数十万円の医療費がかかることがあります。万が一の時に備えて、ペット保険(医療保険)に加入することがおすすめですが、すべてのペット保険がエキゾチックペットを対象にしている訳ではありません。主要なペット保険提供会社を調べたところ、エキゾチックペットを対象としていると明記していたのは、15社中3社のみでした※3

社名 エキゾチック
ペットの
取り扱い
アイペット損害保険株式会社
アクサ損害保険株式会社 ×
アニコム損害保険株式会社
イオン少額短期保険株式会社 ×
イーペット少額短期保険株式会社
(2022年9月15日取り扱い終了)
×
au損害保険株式会社 ×
SBIいきいき少額短期保険株式会社 ×
SBIプリズム少額短期保険株式会社
株式会社FPC ×
日本ペット保険少額短期保険 ×
ペッツベスト少額短期保険株式会社
(2022年9月1日関東財務局より管理命令処分を受け一部を除き業務停止)
×
ペット&ファミリー損害保険株式会社 ×
ペットメディカルサポート株式会社 ×
楽天少額短期保険株式会社 ×
リトルファミリー少額短期保険株式会社 ×

エキゾチックペットを扱っている保険会社であっても、なかには哺乳類の小動物しか扱っていないものや、ペットの購入時にしか加入出来ないもの、年齢制限があるものもあります。ペットを迎える前によく内容を調べておく必要があります。

© Ola Jennersten / WWF-Sweden

人獣共通感染症
ペットから人へ、人からペットへ
うつる病気

ペットが病気になったときに、命の危険に晒されるのはそのぺットだけではありません。感染症のなかには、動物から人へうつるものや、逆に人から動物にうつるものがあります。また、動物では軽症でも人にうつると重篤な症状になってしまうものやその逆のケースもあります。また、家族に乳児や高齢者など感染のリスクや感染した際の重症化リスクの高い人がいる場合は、一層の注意が必要になります。人にとってもペットにとっても、互いの病気は「他人事」ではないのです。

動物がかかる病気の中で、人と動物が共通してかかる感染性の疾病を「人獣共通感染症」といいます 。身近なペットだけでなく、家畜・家きんや野生の鳥獣など、人獣共通感染症の病原体を保有している動物は少なくありません。

家きんが感染源となった鳥インフルエンザ、野生のオオコウモリから霊長類を介して人にうつったとされるエボラ出血熱、そして2019年以降世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、元々はコウモリが保有していたウイルスを原因とする人獣共通感染症だと考えられています。

世界保健機関(WHO)は現在、世界的に200以上の重視すべき人獣共通感染症があるとしており 、そのうち日本では数十の感染症が発生していると考えられています 。

人への感染が確認されている
ウイルスの累計発見数
WWF-International発行「 COVID 19: Urgent Call to protect people and Nature」より
過去100年に発生したウイルス性の人獣共通感染症の累積数

動物から人へうつる病気

ペットに関係している代表的な人獣共通感染症としては、猫から感染する猫ひっかき病、犬から感染するレプトスピラ症、鳥類から感染するオウム病や、爬虫類・両生類からのサルモネラ症が挙げられます。

これらは病原体を持っている動物は無症状であっても、人に感染すると症状が軽いものでは傷口が腫れたり、風邪のような症状がみられたりします。重症の場合は肺炎、髄膜炎、敗血症や時に死に至るケースも確認されています。

© Conservation Media / WWF-US

また、既に日本では根絶されたと考えられる致死率の高い狂犬病やペストも人獣共通感染症で、狂犬病は主にイヌ科の動物に咬まれることで人へ感染します。ペストは、猫、ネズミやプレーリードッグといったペストに感染した動物の体液やペスト菌を保有したノミが人を刺すことによって感染する病気です。その他にも動物に寄生するノミ・ダニなどから人へ感染する病気は多くあるため、海外(とりわけ発症国)から持ち込まれた動物については、特に注意が必要です。

ペットから人に感染する
代表的な人獣共通感染症
関係する主な動物 病名 動物の主な症状 人の主な症状
猫ひっかき病 多くは無症状 傷口、およびその付近の
リンパ節の腫れ、倦怠感
トキソプラズマ
肺炎、脳炎 乳児の先天性障害
(妊婦が感染した場合)
Q熱 多くは無症状 高熱、頭痛、筋肉痛や関節痛、
吐き気、嘔吐、下痢
犬ブルセラ症 多くは無症状 発熱、風邪様症状
犬、猫、コウモリ
、キツネ、スカン
ク、アライグマ
狂犬病(※1) 狂そう、麻痺、
昏睡して死亡
神経症状、昏睡、死亡
犬、猫 カプノサイトフ
ァーガ・カニモ
ルサス感染症
多くは無症状 発熱、頭痛、吐き気、
敗血症、髄膜炎
犬、猫 コリネバクテリ
ウム・ウルセラ
ンス感染症
くしゃみ、鼻水、
皮膚の化膿
風邪様症状、咽頭痛、膿瘍
犬、ハムスターな
ど齧歯類(ネズミ
の仲間)
レプトスピラ症 肝炎、腎炎 発熱、肝機能障害、
腎機能障害、黄疸・出血
犬、猫、鳥 パスツレラ症 多くは無症状 皮膚炎、呼吸器系疾患
犬、猫、ウサギ、
ハムスターなどの
齧歯類
皮膚糸状菌症 脱毛、フケ、
無症状
円形発赤、水膨れなどの皮膚炎
ウサギ 野兎病 食欲低下、発熱 発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、
関節痛
高病原性鳥イン
フルエンザ
突然の死亡、
元気消失、食欲衰退、
呼吸器症状、下痢
高熱、呼吸器症状、肺炎
オウム病 下痢、元気消失 頭痛、全身倦怠感、筋肉痛、
関節痛、咳
プレーリードッグ
などの齧歯類、犬
、猫
ペスト(※2) 無症状、リンパ節の
腫れ、無気力
リンパ節炎、敗血症、高熱、
意識障害、肺炎
両生類、爬虫類、
犬、猫、ネズミな
ど齧歯類
サルモネラ症 多くは無症状 発熱、胃腸炎(食中毒)
キツネ、犬、ネズ
ミなどの齧歯類
エキノコックス
多くは無症状 肝腫大、腹痛、肝機能障害
(※1:日本国内感染は、人では1956年、動物では1957年を最後に発生が確認されていない)
(※2:日本国内感染は1926年を最後に発生が確認されていない)

エキゾチックペットからの
感染は珍しい?

エキゾチックペットからの感染事例も決して稀ではなく、発熱、頭痛や肺炎などの症状があるオウム病は、オウム病クラミジアに感染した鳥類から人へうつる病気です。日本全国で年間数~20件程度の報告があり、妊娠女性の死亡例も確認されています※4。人に胃腸炎や重篤な場合は敗血症を引き起こすサルモネラ症は、カメやトカゲなど爬虫類との接触が原因となることが多く、一般家庭で飼われている爬虫類の32%、国内のペットショップで販売されていた個体の80%がサルモネラ菌を保有していたという調査結果もあります※5

ペットからの感染を予防するためには、口移しでエサを与えるような過度に濃密な接触は避け、こまめに掃除するなどペットの飼育環境を衛生的に保つこと、動物に触ったり、排泄物の始末をしたりした後はよく手を洗うことが大切です。特に小児や妊娠女性、高齢者が家族にいる場合は、衛生に一層の注意が必要です。

© WWF / Richard Stonehouse

人から動物へ
うつる病気もある?

人からペットにうつる感染症もあります。2009年にパンデミックが起きた新型インフルエンザ (通称豚インフルエンザ)はその一例。人からペットとして飼育されていた犬、猫、フェレットに感染したほか、動物園で飼育されていたビントロングやアメリカアナグマ、ジャイアントパンダなどにも感染したことが分かっています 。

© naturepl.com / Eric Baccega / WWF

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、2022年4月時点で23種の動物への感染が確認されています※6。デンマークでは人からミンクに新型コロナウイルス感染症のウイルスが感染し、そのミンクから変異種がうまれ、それが人に再度感染したと考えられる事例も確認されています。これにより、飼育されていたミンクが、大量殺処分される事態となりました 。
なお、現時点では、人からペットへの国内の感染事例はわずかな数に限られていますが、飼い主が感染した場合には、なるべくペットに接触しないようにしましょう。

また、人では重篤な症状に至ることが少ない感染症であっても、他の動物に感染すると致死的となる感染症もあります。
例えば、単純ヘルペスウイルス感染症。人では唇などに痛痒さを伴う水ぶくれができ、重い症状になることは稀です。しかし、ペットとして飼育されていたマーモセットが、飼い主の唇を舐めたり、人の手を噛んだりしたことで人の単純ヘルペスウイルスに感染し、その後死亡した事例が複数報告されています※7

© Martin Harvey / WWF
人からペットへの感染が確認されている
代表的な人獣共通感染症
病名 感染が確認されている動物例
新型インフルエンザ(通称 豚インフルエンザ) 犬、猫、フェレット
新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 犬、猫、ミンク、フェレット
単純ヘルペスウイルス感染症 マーモセット
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 犬、猫
クリプトスポリジウム症 ウサギ、齧歯類(ネズミの仲間)
結核 犬、猫、サル

ペットから人、人からペットに感染する感染症は多岐にわたります。人もペットも健康でいられるよう人獣共通感染症をきちんと理解し、ペットや家族が感染症にかからないようしっかり予防策をとりましょう。

ペットと自然環境