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ペットと
自然環境

自然にやさしい
ペットの飼い方を考える
エキゾチックペットのリアルな世界
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ペットと自然環境

自然にやさしいペットの飼い方を考える
目次
ペットを飼うことと自然環境の保護というと、あまり関係のないことのように思うかもしれませんが、実はそうではありません。ペットとしての利用が、その動物種の生息数の減少に繋がり、絶滅の危機を高めてしまっている例もあります。さらに、ペットのなかにはもともと日本に生息していなかった動物種も数多くいます。こうしたペットが逃げ出し、日本の生態系を乱してしまう外来種問題も発生しています。
ここでは、こうしたペットの飼育と種の保全や環境保護について考えてみたいと思います。
© Harish Segar / WWF

ペットショップで売られる
「絶滅危惧種」
かわいい!が、絶滅の原因に

日本では様々なエキゾチックペットが飼育されていますが、その中には野生動物も含まれます。野生動物というと、人に依存せずに自然の中で暮らしている動物を想像しますが、ここでは、自然界で暮らしているか、人に飼育されているかを問わず「家畜化された動物」以外、つまり人が長年にわたって飼育・繁殖・品種改良などを行ってきた動物以外を野生動物と呼びます。そして、国内でペットとして飼育されている野生動物の中には、絶滅のおそれがある動物も含まれています。

ペットとして日本で販売・飼育されている
絶滅のおそれが高い*野生動物の例
哺乳類
  • スローロリス
    ©Mikaail Kavanagh / WWF
  • コツメカワウソ
    © Junkichi Mima / WWF Japan
  • タマリン
    ©Martin Harvey / WWF
  • ビントロング
    ©Mikaail Kavanagh / WWF
鳥類
  • シロフクロウ
    © David Lawson / WWF-UK
  • スミレコンゴウインコ
    © Roger Leguen / WWF
  • ヨウム
    © 認定NPO法人TSUBASA
  • ミナミジサイチョウ
    © Andrea Davis
爬虫類
  • インドホシガメ
    © David Lawson / WWF-UK
  • ミミナシオオトカゲ
    Chien C. Lee, Wild Borneo Photography, CC BY-SA 4.0
  • コバルトツリーモニター
    © Lutz Obelgonner / WWF
  • ズグロニシキヘビ
両生類
  • ヤドクガエル
    © André Bärtschi / WWF
  • ミナミイボイモリ
    © André Bärtschi / WWF
*IUCNレッドリスト で絶滅危惧種(Threatened species:CR、EN、VU)として評価されている野生動物

ペットとして利用される野生動物には、飼育下で繁殖させることが難しい種が多くいます。それにもかかわらず、ペット需要が大きくなると、野生個体の捕獲が頻繁に行なわれるようになり、減少に拍車がかかって、絶滅の危機を高めることに繋がってしまいます。

また、ヨウムのように飼育下での繁殖が可能な野生動物の場合も、交配可能な親の個体数が少ないと近親交配が世代を重ねて多く行なわれることになります。これによって生じる近交弱性(遺伝的な多様性が少なくなり、出生率の低下や先天異常の増加が起こる)を避けるためには、外から新たな遺伝子を入れなければなりません。そのため、結果的にまた野生の個体が捕獲され、個体数減少の原因となることがあります。

© Jaap van der Waarde / WWF-Netherlands
ヨウムの群れ

野生の個体数が少なくなり、法律で捕獲が禁止されても、需要を満たすために違法な捕獲や取引が行われることもあります。しかし、密猟や密輸された野生個体と、飼育下繁殖させた個体を明確に区別することは簡単ではありません。

© Roger Leguen / WWF
密輸されたボウシインコ

野生動物をペットにすることに
よって生じる問題

野生動物が日本でペットとして販売されるまでの過程で、どのような深刻な問題が起きているのか。その具体的な内容を見てみましょう。

密猟

野生動物の捕獲が法律で規制されているにも拘らず、違法に捕獲する「密猟」の問題があります。その標的となっている動物として、スローロリスが挙げられます。スローロリスはインドネシアやタイ、ベトナムなど東南アジア地域に生息する霊長類(サルの仲間)ですが、森林破壊によるすみかの減少、ペットや伝統薬にすることを目的とした捕獲によって個体数が減少してしまいました。絶滅も心配されており、生息国の多くで野生個体の捕獲が禁止されています。しかし、2000年代になってからも、日本へ100頭を超えるスローロリスが密輸されました※1

© TRAFFIC
インドネシアのジャカルタで販売されていたスローロリス

密輸

野生動物が密輸、つまり違法に輸出入されることもあります。その一例が、東南アジアに生息する小型のカワウソの一種、コツメカワウソです。ワシントン条約で輸出入が規制されてきましたが、SNSなどで人気を博し、ペットとしての需要が高まりました。その結果、規制を無視して日本にカワウソを密輸しようとし、摘発される事件がしばしば起きました。2000年以降に60頭を超えるカワウソの日本への密輸(または未遂)が報告されています※2

© P. Tansom/TRAFFIC
ペットとしてタイから日本に密輸される途中、保護されたコツメカワウソ

過剰捕獲

ペットの需要を満たすために過剰な捕獲が行われ、個体数が大幅に減少した野生動物もいます。インドネシア原産のオウム、コバタンは、1980年から1992年にかけてペット利用を目的に過剰捕獲が行われ、結果的に野生個体の数が激減してしまいました。現在では野生に1,200~2,000羽ほどしか成鳥(おとなの個体)が生息していないと推測され、IUCNのレッドリストに最も絶滅のおそれが高いCR(近絶滅種)として掲載されています※3。日本でも人気が高く、一羽70万円以上で取引されることもあります。

ロンダリング

野生から捕獲した個体を「飼育下で繁殖した(CB: Captive Bred)個体」だと偽って取引を行うロンダリングの問題も起きています。飼育下繁殖するより、野生の個体を捕獲する方が容易で安価な場合、ロンダリングが行われる可能性が高くなります。日本でも人気のあるミドリニシキヘビ(グリーンパイソン)はその一例です。生息地のインドネシアから一年間にCB個体として輸出されているミドリニシキヘビのうちの約80%が、実は違法に野生から捕獲された可能性があるという調査報告があります※4

日本でも人気のミドリニシキヘビ

ペットと外来種問題
逃げ出したペットが生態系を脅かす

飼い主が飼育の責任を放棄してしまったり、意図せずペットを逃がしてしまったりすることで、生じる問題もあります。

© Ola Jennersten / WWF-Sweden

野生化するペットたち

本来の生息地ではない環境に、外来の動植物がすみ着いてしまうことを野生化(または移入)と言います。動物の野生化には大きく、2つのパターンがあります。一つは、海外や国内の他地域からの貨物や人に付着・混入して意図せずに持ち込まれた動物が野生化してしまうパターン。もう一つは、ペットや家畜などとして飼育されていた動物が意図的に野外に放されたり、逃げ出したりして、野生化してしまうものです。
こうした動植物を「外来種(移入種、または外来生物)」とよびます。
中には移入された先で爆発的に繁殖し、在来の植生を大きく変えてしまったり、その土地の固有の生きものを捕食したりして、生態系を乱すことから「侵略的外来種」と呼ばれる種もいます。
ペットとして世界的に取引されている動物の中には、下の図のように外来種となった動物が多くいることが確認されています※5

外来種化したペット

外来種となるのは海外原産の生きものに限りません。日本在来の動植物であっても、人の手によって、本来の生息地以外の地域に持ち運ばれ、そこで野生化した場合には「国内外来種」となります。ペット由来の国内外来種としては、ヤエヤマイシガメやアズマヒキガエルなどが知られています。

生態系に悪影響をおよぼす
侵略的外来種

日本でもペットが野生化し、外来種となる問題が多く確認されています。中には「侵略的外来種」となってしまった野生動物も少なくありません。
その一例が、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)です。この北米産のカメは、ペット目的で1950年代に日本へ輸入されるようになり、1960年代後半から野外で発見されるようになったと言われています。現在では、外来種として、日本全国で野生化していることが確認されています。この外来種のカメは、日本の在来種であるニホンイシガメの生息環境を奪い、水生植物や魚類、両生類、甲殻類等に影響を及ぼしていると指摘されています。

©Junkichi Mima / WWF Japan

飼育が禁止されている
特定外来生物

侵略的外来種のなかには、輸入のみならず、飼育や運搬が禁止され、防除が推進されている動物もいます。こうした動物は「特定外来生物」として法律で指定され、輸入・販売・譲渡・飼育・運搬などが原則禁止されています※6

アライグマ:無責任なペット利用の果てに…

北米に生息する雑食性の哺乳類アライグマはその一例です。日本では1970年代、「あらいぐまラスカル」というテレビアニメが流行し、アライグマをペットとして飼育する人が増えました。しかし、人に馴れず、気性の激しいアライグマは、明らかにペットとするには不適切な野生動物です。結果的に、飼育の難しさを理由に野に放ってしまうケースが多発し、現在では日本ほぼ全土で野生化が確認されています。2005年には、特定外来生物に指定され、防除の対象となりましたが、農作物を荒らす被害に加え、日本にもともと生息していた在来種を捕食するなど、生態系を乱しています。さらに、人家の屋根裏にすみついて、糞や臭いの問題を引き起こすなど、様々な被害をもたらしています。

©Junkichi Mima / WWF Japan

キタリス:日本固有リスの未来を奪う?

リスの一種、キタリスも同じように外来種問題を引き起こしています。キタリスはペット目的でヨーロッパや中国から日本に輸入・販売された野生動物です。
その個体が捨てられたり、逃げたりして野生化した結果、関東の一部で定着。現在は特定外来生物に指定されています。このリスは日本の固有種であるニホンリスやエゾリス(キタリスの北海道固有亜種)と交雑するため、在来種の血統に異なる遺伝子を持ち込んで、野生種の絶滅を引き起こす危険があります。

©Ola Jennersten / WWF-Sweden

グリーンアノール:天然記念物を絶滅に追い込んだトカゲ

ペットおよびペット爬虫類のエサ用として飼育されていた、北米原産のトカゲ、グリーンアノールも、移入先の生態系を大きく乱している特定外来生物の一種です。希少な固有種の宝庫である小笠原諸島では、逃げだしたり、捨てられたり、荷物への混入により侵入したグリーンアノールが野生化し、在来の野生生物に甚大な被害をもたらしました。その影響は、多くの固有種を含むチョウ、トンボ、ハナバチなどの昆虫類に強く及んでおり、いずれもグリーンアノールに捕食される被害が発生しています。特にオガサワラシジミという固有の蝶はグリーンアノールの捕食が原因で絶滅寸前、あるいは既に絶滅したと考えられています。グリーンアノールは、2005年に特定外来生物に指定されましたが、完全な駆除には至っていません。

© Elizabeth Henderson

ペットを飼うことと
自然を守ることの両立を
まず、知ることから
一歩立ち止まって考える

このように、ペットを飼うことと自然環境を守ることには、切っても切れない深い関係があります。安易に野生動物を買い求めることは、その動物を絶滅の危機にさらす可能性があります。また、どのような動物種であってもペットを捨てたり逃がしてしまったりすることで、野生化し、生態系に悪影響を与えてしまうかもしれません。

© Casper Douma / WWF

ペットを飼育することは、その動物の命に対する責任だけでなく、時に何万年もかけて築かれてきた、その動物が本来暮らしていた環境や、私たちが普段接する在来の自然やそこにすむ生きものの存続の責任の一端を担うということでもあります。

まずは知ることから始めましょう。そして、一度立ち止まって考えてください。その動物は自然界でどんな状況に置かれているでしょうか。あるいはその動物の周囲でどんな問題が起きているでしょうか。ペットを迎え入れる際には、種の保全やその動物が生息している環境、また身近な自然の保護という観点を、どうか忘れないでください。

ペットとして取引される野生動物